丘丘十郎（海野十三）『雪魔』「五助ちゃん。今ごろ雪崩が起るというのはへ…

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青空文庫図書カード: 丘丘十郎（海野十三）『雪魔』

現代語化

「五助くん。今頃雪崩が起きるのは変だな。まだ早すぎるだろ」
「そうなんだ」
「でもさっきの銃撃で、雪崩が起きたのかもしんない」
「そんなことあるのかなあ」
「たまにはあるよ。でも、どっちかっていうと珍しい出来事だ」
「五助くん、怪我してるじゃん。手から血が出てるよ」
「えっ、手から血が出てるって…」
「どこから出血したんだろう。別に痛みも感じないのにさ」
「どこにも、怪我してないんだけどなあ」
「でも変だな。ちゃんと血がついてるんだからね。ずいぶんたくさんの血だよ」
「不思議だなあ。どうしたんだろう」
「全く不思議だ。気持ち悪いね」
「ああわかった」
「わかったって。どういうわけだよ」
「そのわけは…困ったなあ」
「でも五助くん、悲観しちゃダメだよ。あの雪穴の中に血が流れてたのかもしんない。その血がお前の手に付いたのかもしれない」
「あっ、そうか」
「すると一造兄さんが穴の中で…」
「さあ、それはまだ本当かどうか分かんないんだ。雪穴を掘り出した上でないと、確かにそうだとは言えないよ。だから気を落とすのはまだ早いよ」
「五助くん。山を降りよう。そしてこのことをみんなに知らせようよ」
「そうだ。村の人にそう言って、雪崩の下から雪穴を早く掘り出して調べなきゃ…」

原文 (会話文抽出)

「五助ちゃん。今ごろ雪崩が起るというのはへんだね。まだ早すぎるじゃないか」
「そうなんだ」
「しかしさっきの銃をうったあの響で、雪崩が起ったのかもしれない」
「そんなことがあるもんかなあ」
「たまにはあるんだよ。しかし、どっちかといえば、めずらしい出来事だ」
「五助ちゃん、怪我をしているじゃないか。手から血が出ているぜ」
「えっ、手から血が出ているって……」
「どこから出血したのだろう。別に痛みも感じないのにねえ」
「どこにも、怪我はないんだがねえ」
「でもへんだね。ちゃんと血がついているんだからね。ずいぶんたくさんの血だよ」
「ふしぎだねえ。どうしたんだろう」
「全くふしぎだ。気味が悪いねえ」
「ああ分った」
「分ったって。どういうわけなの」
「そのわけは……困ったねえ」
「でも五助ちゃん、悲観しちゃだめだよ。つまりあの雪穴の中に血が流れていたんじゃないか。その血が君の手についたのかもしれない」
「あっ、そうか」
「すると一造兄さんが穴の中で……」
「さあ、それはまだほんとうかどうか分らないんだ。雪穴を掘りだした上でないと、確かにそうだといえないよ。だから気を落すのはまだ早いよ」
「五助ちゃん。山を下りよう。そしてこのことを皆に知らせようや」
「そうだ。村の人にそういって、雪崩の下から雪穴を早く掘りだして見なければ……」

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