太宰治 『津軽』 「これは、いかん。」…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『津軽』

現代語化

「これは、いかん。」
「科学の世の中とか何とか偉そうなことを言ってたって、こんな凶作を防ぐ方法を農家たちに教えることもできないなんて、だらしがない。」
「いや、技術者たちもいろいろ研究はしてるんだ。冷害に耐えられるように品種が改良されてもいるし、植え付けの時期にも工夫が加えられて、今では、昔のみたいに徹底的な不作というのはなくなったんだけど、でも、それでも、やっぱり、4～5年に一度は、ダメな時があるんだねえ。」
「だらしがない。」
「砂漠の中で生きてる人もいるんだからね。怒ったって仕方ないよ。こんな気候からはまた独自の風情も生まれるんだ。」
「あんまり結構な風情でもないね。のんびりしたところがないんで、僕なんか、いつでも南国の芸術家には負けてる気がする。」
「でも君は、負けてないじゃないか。津軽地方は昔からよその者に攻め破られたことがないんだ。殴られるけれども、負けやしないんだ。第八師団は国宝だと言われてるじゃないか。」

原文 (会話文抽出)

「これは、いかん。」
「科学の世の中とか何とか偉さうな事を言つてたつて、こんな凶作を防ぐ法を百姓たちに教へてやる事も出来ないなんて、だらしがねえ。」
「いや、技師たちもいろいろ研究はしてゐるのだ。冷害に堪へるやうに品種が改良されてもゐるし、植附けの時期にも工夫が加へられて、今では、昔のやうに徹底した不作など無くなつたけれども、でも、それでも、やつぱり、四、五年に一度は、いけない時があるんだねえ。」
「だらしが無え。」
「沙漠の中で生きてゐる人もあるんだからね。怒つたつて仕様がないよ。こんな風土からはまた独得な人情も生れるんだ。」
「あんまり結構な人情でもないね。春風駘蕩たるところが無いんで、僕なんか、いつでも南国の芸術家には押され気味だ。」
「それでも君は、負けないぢやないか。津軽地方は昔から他国の者に攻め破られた事が無いんだ。殴られるけれども、負けやしないんだ。第八師団は国宝だつて言はれてゐるぢやないか。」

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