太宰治 『新釈諸国噺』 「誰もそなたを疑ってはいない。そなたばかり…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『新釈諸国噺』

現代語化

「誰もあなたを疑ってませんよ。あなただけじゃなくて、俺たちも皆、日々の暮らしに困ってる貧乏人だけど、たまには懐に1両か2両持ってることもあるさ。貧乏人は貧乏人同士、死んで自分の潔白を示そうって気持ちはわかるけど、誰もあなたを疑ってないのに、切腹なんてバカらしいじゃないか」
「お言葉はありがたいですが、そのお情けも死んでからの楽しみにしておきます。1両のことで騒ぎを起こしたうえに、たまたま1両持ってるなんて運の悪さ。皆さん疑ってなくても、この恥は消えません。世間の笑いもの、一生の不覚です。面目なくて生きてられません。確かに、この懐中にある1両は、俺が昨日、前から持ってた徳乗の小柄を、坂下の唐物屋の十左衛門に1両2分で売った金子には違いないですけど、今さらそんな言い訳をするのも武士の恥辱です。何も言いません。殺してください。不運な仲間を少し可哀想に思ってくれるなら、俺が自害したあとに、坂下の唐物屋に行って、そのことを確かめて、遺体の名誉を、お願いします!」
「あれ?」
「そこにあるよ」
「なんだ、そんなところにあったのか」
「灯台もと暗しですね」
「なくし物は、たいてい変なところから出てくるもんだ。それだけに、普段の心がけが大切だな」
「いや、本当に騒がしい小判だ。おかげで酔いが覚めました。飲み直しましょう」
「あれ!」
「小判はここにある」

原文 (会話文抽出)

「誰もそなたを疑ってはいない。そなたばかりでなく、自分らも皆、その日暮しのあさましい貧者ながら、時に依って懐中に、一両くらいの金子は持っている事もあるさ。貧者は貧者同志、死んで身の潔白を示そうというそなたの気持はわかるが、しかし、誰ひとりそなたを疑う人も無いのに、切腹などは馬鹿らしいではないか。」
「お言葉は有難いが、そのお情も冥途への土産。一両詮議の大事の時、生憎と一両ふところに持っているというこの間の悪さ。御一同が疑わずとも、このぶざまは消えませぬ。世の物笑い、一期の不覚。面目なくて生きて居られぬ。いかにも、この懐中の一両は、それがし昨日、かねて所持せし徳乗の小柄を、坂下の唐物屋十左衛門方へ一両二分にて売って得た金子には相違なけれども、いまさらかかる愚痴めいた申開きも武士の恥辱。何も申さぬ。死なせ給え。不運の友を、いささか不憫と思召さば、わが自害の後に、坂下の唐物屋へ行き、その事たしかめ、かばねの恥を、たのむ!」
「おや?」
「そこにあるよ。」
「なんだ、そんなところにあったのか。」
「燈台もと暗しですね。」
「うせ物は、とかく、へんてつもないところから出る。それにつけても、平常の心掛けが大切。」
「いや、まったく人騒がせの小判だ。おかげで酔いがさめました。飲み直しましょう。」
「あれ!」
「小判はここに。」

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