横光利一 『旅愁』 「そうだなア。」…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「そうだなあ」
「その場にいる時はいい所って思うのと、あとで思い出すと良くなる所があるよね。簡単に言えないよ」
「でも、私たちの目から見たら面白そうですよ、パリは？」
「うん」
「まあ、そんなもんなのよ」
「変なこと言うな」
「何よ」
「じゃ、つまらなかったの、行って？」
「それは、そのうち話をするとして、それよりも早く身体を良くすることだ。幸吉みたいな病気をする奴は、やはり心がけが悪いんだよ」
「そう言われれば、それまでだけど。――でも、お母さん心配してるみたいよ。お兄ちゃん元気がないようだけど、どうしたんだって。別に心配するほどのこともないでしょ。パリまで行って――」
「ないよ」

原文 (会話文抽出)

「そうだなア。」
「そこにいるとき良い所と、後で思い出してから良くなる所とあってね。一口では云えないものだ。」
「でもまア、あたしたちの面白そうなところよ、パリはいいでしょう？」
「うむ。」
「まア、あんなものだなア。」
「おかしな人。」
「何が？」
「じゃ、つまらなかったの、行って？」
「そういうことは、そのうちおいおい話すとして、それより早く身体を善くすることだ。幸スケのような病気をする奴は、やはり心がけが善くないからだよ。」
「そう云われれば、それまでだけれど。――でも、お母さん心配してらっしてよ。お兄さんひどく元気がないようだが、どうしたのかしらなんて。別に心配するほどのことも無いんでしょう。パリまで行って――」
「無いさ。」

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