横光利一 『旅愁』 「何んだかどうも僕の云い方がへんなんだね。…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「なんだかどうも俺の言い方が変なんだね。そんなんじゃないんだよ。君の邪魔なんかしてないんだ。俺だってあなたみたいな清らかな人を、こんな時でも頭に浮かべなきゃ困るんだからな。そうでしょ。こういう時こそ君みたいな人が藁になってくれるんですよ。側にいてくれればいいんだもの。矢代だって何も有り難がってくれりゃ良いんだ。そんなことくらいしてくれなくちゃ何の友達だ。俺、矢代にそのうち言うつもりですよ。」
「何も僕がこんなこと言ったからって、そう君を苦しめることじゃないでしょう。何でもないことだもの。どうして俺の言うこと無理があるのかな。それなら取り消しだが、ただ困った時には困った工夫が俺にあったって、そんなことまで悪い筈があるものか。じゃ帰ろう。また会いますよ。」
「明日お昼頃お邪魔しますよ。」
「なんだか俺、言っちゃったけど、でも、俺の悩んでるなのは女のことじゃない。お母さんに代わるものが欲しいんだ。ただそれだけだ。俺の言ったことはどうだって、あれは もういい。」

原文 (会話文抽出)

「何んだかどうも僕の云い方がへんなんだね。そんなんじゃないのだよ。君の邪魔なんかしてやしないんだ。僕だってあなたのような清潔な人を、こんなときでも頭に泛べなければ困るんだからな。そうでしょう。こういうときこそ君のような人が藁になってくれるんですよ。ただいててさえくれればいいんだもの。矢代だって何も有り難がってくれりゃ良いのだ。そんなことぐらいしてくれなくちゃ何んの友達だ。僕は矢代にそのうち云うつもりですよ。」
「何も僕がこんなことを云ったからって、そう君を苦しめることじゃないでしょう。何んでもないことだもの。どうして僕の云うこと無理があるかな。そんなら取り消しだが、ただ困ったときには困った工夫が僕にあったって、そんなことまで悪い筈があるものか。じゃ帰ろう。また会いますよ。」
「明日お昼ごろお邪魔しましてよ。」
「何んだか俺は云って来たが、しかし、俺の悩んでいるのは女のことじゃない。お袋に代るものがほしいのだ。ただそれだけだ。俺の云ったことはみなどうだって、あれはもういい。」

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