横光利一 『旅愁』 「君の恋人何んだかしきりに云いわけしとるぞ…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「君の彼氏、なんか言い訳してるよ。じゃあ、交代ね」
「僕、矢代」
「さっきは――あのさ、私ピエールさんに夜食ご馳走になってたから、遅くなっちゃったの。久慈さん悪いわ。せかしてたから、あなただと思って」
「久慈がね、今頃帰って来たんですよ。どこに行ってたかまだ白状してないんだけど、これから1回、やっつけようというところなんです」
「真紀子さんは？」
「あの人、結局高さんと踊りに行っちゃった。帰りは僕1人です」
「じゃあ、まだなの」
「まだです。きっと遅くなるでしょう」
「心配ね。私、お礼に行かなくちゃと思うんだけど、どうしたらいいかしら」
「いや、その心配はいらないと思います」
「何の心配よ」
「久慈が何か怒ってますから、今夜はもうゆっくりお休みください」
「じゃあ、おやすみなさい。また明日ね」
「さようなら」
「いいですか、切りますよ」

原文 (会話文抽出)

「君の恋人何んだかしきりに云いわけしとるぞ。さア、代るよ。」
「僕、矢代。」
「さきほどは――あのね、あたしピエールさんに夜食を御馳走になってたものだから、遅くなってしまったの。久慈さんいけないわ。せかせかしてたもんだから、あなただと思って。」
「久慈がね、今ごろ帰って来たんですよ。どこへ行ってたかまだ白状しないんだが、これから一つ、虐めようというところなんです。」
「真紀子さんは？」
「あの人、とうとう高さんと踊りに行っちまった。帰りは僕一人でね。」
「じゃ、まだなの。」
「まだです。きっと遅くなるでしょう。」
「心配ね。あたし、お礼に行かなくちゃと思うんですけど、どうしたらいいかしら。」
「いや、その御心配はいらないと思いますね。」
「何の御心配だ。」
「久慈が何だか呶鳴ってますから、今夜はもう御ゆっくりお眠みなさいよ。」
「じゃ、お眠みなさい。また明日ね。」
「さようなら。」
「良ろしいか、切りますよ。」

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