横光利一 『旅愁』 「それはあたしも自分で知らなかったのよ。初…

青空文庫現代語化 Home書名リスト横光利一 『旅愁』

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。 正しく現代語化されていない可能性もありますので、必ず原文をご確認ください。


青空文庫図書カード: 横光利一 『旅愁』

現代語化

「それ、私も知らなかったんです。最初は塩野さんが仕事の人手が足りないから手伝ってくれって言うから、『暇だからいいですよ』って言ったら、実はこういうことだと。フランスの大蔵大臣のサロンに出るのに、女性が1人足りないから困ってるって言うんです」
「大蔵大臣って、どうしてあの人が大臣と付き合いしなきゃいけないんですか?」
「私もそれが分からなかったんです。で、こうなんです。日本は今ちょうど、鮭の缶詰をフランスに輸出してるんですって。それがフランスの法律でこれ以上は輸出するのが難しくなってるから、その法律をなんとか自由にして、もっと輸出できるようにしないといけないって計画してるんです。日本の大使館が必死に動いてるんですよ。そんな仕事に大使がいきなり出るわけにはいかないでしょ。大使が出るまでにあちこちの人が手回しをして、そのためにサロンを利用するらしいんです。でも、塩野さんがパートナーがいないから困ってるって言うんです」
「じゃ、あなたもいろいろ鮭のこととか質問するんですか?」
「いや、私はただサロンで踊ったり、向こうの秘書官とお茶飲んだりしてればいんです。その間に塩野さんたちが、向こうの意見を探ってるんでしょう」
「それじゃ、面白いことも多いでしょうね」
「ええ、たまにあります。この間もピエールってフランスの若い書記官が私の手にキスしたんです。びっくりしちゃいました」
「でも、パリの上流のお嬢さんってすごいですね。日本とは全然違いますよね。18歳で難しい哲学の本を読んでて、男性に質問してるんです。ブロウニュに行く道にあるアベニュー・フォッシュの家ですよ。下のホールが銀座の資生堂くらい広くて、別室にマキシムのコックが来てて。そこで料理とお茶を飲んでからホールで踊るんですけど、壁とかすごいんです。タペストリーも全部ゴブラン織りで、ルネサンス時代の大きな彫像が置いてあって、本当に豪華です」

原文 (会話文抽出)

「それはあたしも自分で知らなかったのよ。初め塩野さんが仕事をするのに人手が足りないから助けてくれと仰言るんでしょう。ですから、あたしはいつでも暇だからって云っておいたら、実はこうだと云って、フランスの大蔵大臣のサロンへ出るのに、一人婦人が足りないので困っているんだと仰言るの。」
「大蔵大臣って、どうしてあの人が大臣と交際しなくちゃならんのです。」
「あたしもそれが分らなかったんですの。ところが、こうなの。日本は今丁度、鮭の缶詰をフランスへ輸出してるんだそうですのよ。それがフランスの法律でもうこれ以上は輸出困難というところまで来てるもんだから、その法律をね、何んとか自由にする工夫をして、もっと輸出しなくちゃならないっていう算段なの。日本の大使館必死に活動してるのよ。そんな仕事に大使がいきなり出ては駄目でしょう。大使の出るまでにいろいろ下の者が、工作をしておかなくちゃならないから、その工作にサロンを利用するらしいの。でも、塩野さん、パートナーがないのでどうもやり難くって困ると仰言るの。」
「じゃ、あなたもいろいろ鮭のことを質問するんですか。」
「いやだわ。あたしはただ、サロンで踊りのお相手したり、向うの秘書官とお茶を飲んだりしてればいいのよ。その間に塩野さんたち、だいたいの向うの意向を探るんでしょう。」
「それじゃ、なかなか面白いことも多いでしょうね。」
「ええ、たまには、ありましてよ。この間も一度、ピエールっていうフランスの若い書記官があたしの手に接吻するんですの。あたしまごまごしちまったわ。」
「でも、パリの上流のお嬢さんにはあたし感心しましてよ。日本とはよほど違うと思ったわ。十八で難かしい哲学の本を読んでいて、男の人たちに質問して来るんですの。あのブロウニュへ行く道の、アベニュ・フォッシュにある家よ。下のホールが銀座の資生堂ほどもあって、別室にマキシムのコックが来ているんですの。あたしたちそこでお料理やお茶を飲んでから、ホールで踊るんだけど、でも、壁なんか綺麗なものね。タペストリも皆ゴブラン織で、ルネッサンス時代の大きな彫像が置いてあって、ほんとに素晴らしいクラシックよ。」

青空文庫現代語化 Home書名リスト横光利一 『旅愁』


青空文庫現代語化 Home リスト