横光利一 『旅愁』 「そうですね、日本にいれば僕らはどんなこと…

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「そうですね、日本にいたらどんなこと考えてても、土から生えた根のある木だけど、こっちは根の土を水で流されちゃったみたいだから。ま、せいぜい日本に帰れば土があるんだと思って、今はそれだけで満足ですよ。」
「でも、何なんでしょう。合理主義って日本でもヨーロッパでも変わらないものだと思うんですが、木の種類が違うだけで、木は木なんじゃないでしょうか。」
「それはそうだけど、今まで合理主義で世の中が言ってきたことがどうにもならないってことが、今のヨーロッパの懐疑主義なんじゃないかな。」
「でも、それじゃ何もできないじゃないですか。結局暴力でも認めざるを得なくなっちゃうでしょう。」
「ま、お前みたいに言っちゃえば話は早いけど、でも知識ってのは合理主義からもう離れたもののことを言うんだから。暴力なんてのを批判するには、手頃な簡便主義でも十分でしょう。」
「つまり、それってニヒリズムってわけですか。」
「あなたは女性と一緒だったんでしょ?今日はこの辺にしときます。」
「どうも失礼しました。じゃ行きましょうか。」
「今日はお前も東野さんにやられたな。確かに君の面子が割れてるぞ。」
「ふん、合理主義を認めない作家なんか、何を書いてもいいさ。」
「いや、皆の意見は君の負けだ。ウケるね。」
「じゃ、お前は人間が今まで大事にしてきた美しいものを、全部捨てろって言ってるのか?」
「あら、雪だわ。」

原文 (会話文抽出)

「そうですね、日本にいれば僕らはどんなことを考えていようと、まア土から生えた根のある樹ですが、ここへ来てれば、僕らは根の土を水で洗われてしまったみたいですからね。まア、せいぜい、日本へ帰れば僕らの土があるんだと思うのが、今はいっぱいの悦びですよ。」
「しかし、何んでしょう、合理主義は何も日本だってヨーロッパだって、変る筈のもんじゃないと僕は思うんですがね、樹の種類は違ったって、樹は樹じゃないでしょうか。」
「それはそうだけれども、今まで合理主義で世の中が物を云って来て、どうにもならぬということを発見したのが、近代ヨーロッパの懐疑主義というもんじゃないかな。」
「しかし、それじゃ、僕らは何も出来ないじゃないですか。結局暴力でもそのまま認めなくちゃならなくなってしまうでしょう。」
「まア君のように云ってしまえば話は早分りで良いけれども、しかし、知識というものは合理主義から、もう放れたものの総称をいうのですからね。暴力なんてものを批判するには、手ごろな簡便主義でも結構でしょう。」
「つまり、それじゃ、ニヒリズムというわけなんですか。」
「あなたは御婦人づれじゃありませんか。今日はそんなところで良いでしょう。」
「どうも、失礼しました。じゃ行こうか。」
「今日は君も東野氏にやられたね。たしかに君の面丁割れてるぞ。」
「ふん、合理主義を認めん作家なんか、何を書こうと知れてら。」
「いや、十目の見るところ君の負けだ。愉快愉快。」
「じゃ君は、人間が今まで支えて来た一番美しいものを、みな捨ててしまえと、まだ云うのか。」
「あら、雪だわ。」

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