森鴎外 『伊沢蘭軒』 「福山の君につかへたまへる伊沢ぬし、くすし…

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青空文庫図書カード: 森鴎外 『伊沢蘭軒』

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「福山藩に仕えてる伊沢先生が、お医者さんとして優れてるんで、医学館で医学の勉強について講義するらしいよ。命令みたいですね。福山の殿様が伊沢先生を召し抱えてから、50年くらい経つそうです。今年は11月28日がその記念日で、いろんな人を集めて昔を振り返ったり、今でも医学が盛んになってることを喜んだりしてるらしいです。その席に呼ばれちゃったんですよ。ウチのおじいちゃんから、今の家の主人まで、ずっと家族ぐるみで仲がいいもんだから。だから、僕も呼ばれたんだと思います。それで、こんな歌詠んでお祝いしたんですよ。『家風が受け継がれて、3代も続いて、ずっと世の中で有名な仕事なんだぜ、医学は』。定良より」
「手紙を書きます。用事があるので、明日28日の4時に留守居役方に来てください。以上。10月27日。阿部伊勢守内海塩庄兵衛、関平次右衛門より、伊沢玄庵様」
「覚書。伊沢玄庵。130石を与え、表御医師本科に任命する。但し、物成の渡し方は毎年他の家臣と同じにすること。以上、こう申し渡された。10月27日」
「天保14年の暮れに作った歌」
「天保14年の大晦日」
「年が経つのはあっという間だなあ。お酒を飲みながらロウソクを切って、また新しい年を迎えた。3世代にわたって親族を大切にしよう。一生、ありのままに生きて、天からの贈り物を大切にしよう。今の賢い人はみんなズル賢い。昔から達人はみんな貧乏だった。相変わらず借金は増える一方だな。先生、内君の怒りに触らないように気を付けてください」

原文 (会話文抽出)

「福山の君につかへたまへる伊沢ぬし、くすしのわざにたけたまへれば、こたび医学館にて、其すぢのふみを講説すべきよし、おほやけのおほせごとかゞふりたまへるは、いと／＼めでたきことになむありける。さるはおほぢの君福山の殿にめされ給ひてより、五十年を経ぬと※。ことし十一月廿八日はその日とて、人々をつどへていにしへをしのび、はた今もかく其わざのさかえ行ことをよろこぼひて、さかほがひせる時、おのれも祖父君よりして、父君今のあるじまで、心へだてぬおもふどちなればとて、かずまへられたれば、たゝへまゐらするうた。家のかぜふきつたへつゝ三代までも世に名高かるわざぞくすしき。定良。」
「以手紙致啓上候。然者懸御目度義有之候間、明廿八日四時留守居役方え御出可被成候。以上。十月廿七日。阿部伊勢守内海塩庄兵衛、関平次右衛門。伊沢玄庵様。」
「覚。伊沢玄庵。右百三十石被下置、表御医師本科被召出候。但物成渡方之儀、年々御家中並之通被成下候。右之通被申渡候、以上。十月廿七日。」
「天保十四癸卯歳晩偶成」
「天保十四癸卯除夜」
「老駭年光容易疾。把觴翦燭又迎春。三世垂箴睦親族。一生守拙養天真。方今才士無非譎。自古達人多是貧。依旧増加書酒債。先生漫触内君嗔。」

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