宮本百合子 『道標』 「だって、誰かが着るために買ったんだろう」…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「だって、誰かが着るために買ったんでしょ？」
「そんなことないって。黒い髪より金髪の方が似合うよ」
「それはそうかもしれないな、この色遣いだしさ……」
「ああ、だからその布は、そっちに行くわけか」
「おやじが、またぜひ会いたいそうだぜ」
「そうだったのか、失礼した」
「今日３時に来てくれって」
「ふーん」
「そういうことだったのか」
「失礼したよ。俺、どっちも知ってることかと思ったんだ」
「俺は何も知らないよ。でもお前関係ねーじゃん」
「まあいいや。――どっちみち、俺の用じゃないんだし。――こっちの方を決めようぜ」
「もらってもいい？」

原文 (会話文抽出)

「だって、誰かが着るために買ったんだろう」
「あながちそうでもないんだから、いいよ。黒い髪よりは金髪のひとが着た方がひき立つ」
「そりゃあそうかもしれないね、この色どりは……」
「ああそうか、その布は、そこへ行くわけか」
「おやじさんが、是非また会いたいそうだぜ」
「そうだったのか、失敬した」
「きょうの三時に来てくれっていうことだ」
「ふーん」
「そういうことだったのか」
「失敬した。僕は、どっちも知っていることなのかと思ったもんだから」
「わたしは何にも知らないよ。しかし君の関係したことじゃない」
「まあいいさ。――どっちみち、わたしの用じゃないんだから。――こっちの方をきめようじゃありませんか」
「貰い立ちしてもいいかい？」

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