宮本百合子 『道標』 「それにしても、ああいうのが広告を出すとは…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「にしても、あそこが宣伝出してるなんてびっくり」
「――この前までいたハンガリーの留学生、もしかしてあそこで死んだのかな」
「まさか」
「だって、――だとしたらなんで寝台の布団がはがれてるの？　他に何か思い当たることある？」
「言われてみれば、そうだよね」
「このへんで休憩しようよ」
「今日、ちょっと提案があるんだけど」
「あなたはどこに行かれるんですか？」
「この近くで、勉強するにはうってつけの部屋を見つけたんだ。画家の奥さんの二階で。そっちの方が落ち着いて勉強できると思う。部屋自体は質素だけど、自分にはちょうどいいんだよ」

原文 (会話文抽出)

「それにしても、ああいうのが広告を出すとは、おどろいた」
「――おとといまでいたっていうハンガリア人の学生、もしかしたらあすこで死んだのね」
「まさか」
「だって、――じゃ、どうして寝台の布団がはがれているの？　ほかに何か思いあたること？」
「そう云われれば、そうかな」
「その辺で休みましょう」
「きょう、僕は一つ提案があるんだ」
「あなたはどこへいらっしゃるの？」
「僕は、その家のじき近所で、勉強にはもってこいの室を見つけたんです。画家の未亡人の二階で。そっちの方がずっと勉強するには落ちつける。もっとも部屋そのものは粗末だが、かえって僕にはいいんだ」

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