宮本百合子 『道標』 「わたしたちは、ここで簡単にくらしているん…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「私たち、ここで簡単（質素）に暮らしてるんです」
「素敵な下着――それで、その上には何着るの？」
「本当にね」
「みんなが簡単に暮らしたいと思ってるんです。でも全員がそう暮らせるわけじゃないんです」
「あなた、子供は？」
「まだいません」
「私は、まだ夫がいません」
「私には子供がいたんです」
「それは1919年の飢饉の年でね。年老いた真面目な良いお医者さんが、私にこう言いました。今この子供を産んで、育てることができると思うかって。――私たちは、そういう時代も経験してきたんです」<ctrl100>

原文 (会話文抽出)

「わたしたちは、ここで簡単にくらしているんです」
「見事な下着――そして、上へ着るものは？」
「ほんとにね」
「すべての人は簡単にくらしたいと思っているんです。ただ誰にでもそうくらせるものではないんです」
「あなた、子供さんは？」
「まだです」
「わたしには、まだ夫がないんです」
「わたしは子供をもったことがあったんです」
「それは一九一九年の飢饉の年でね。年をとった真面目ないいドクターでしたが、わたしにこう云いました、いまこの子供を生んで、育てることができると思うかって。――わたしたちは、そういう時代も生きて来たんです」

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