宮本百合子 『道標』 「自分で、日本のしきたりに入りきれずにいる…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「自分で、日本の習慣に馴染めないくせに、日本人病って――。おかしい」
「矛盾してる」
「――とにかくさ、先に手を出したのは俺が悪かった。それは認めるよ」
「実は、腹が立ってるんだ」
「何に？」
「まず自分に……」
「それから、ぶこに――」
「…………」
「ぶこが、どんなに軽蔑してるかと思ってさ――腹の中に軽蔑を隠しといて、何で優等生ヅラしてんだ！と思ったんだよ」
「軽蔑はしてないけど……でも、あんなこと……」
「ここの人たちからさ、ひょっとして逃げ出さなきゃならないような暮らしをしようとしてるんじゃないんだろ――」

原文 (会話文抽出)

「自分で、日本のしきたりに入りきれずにいるくせに、日本人病なんて――。おかしい」
「矛盾してる」
「――ともかく、さきへ手をあげたのは、わたしがよくなかった。それはみとめますよ」
「実は、幾重にも腹が立つのさ」
「なにに？」
「先ず自分に……」
「それから、ぶこに――」
「…………」
「ぶこが、どんなに軽蔑を感じているかと思ってさ――腹んなかに軽蔑をかくしているくせに、なにを優等生面して！　と思ったのさ」
「軽蔑しやしないけれど……でも、あんなこと……」
「ここのひとたちの前から、まさか、かけて逃げ出さなけりゃならないような暮しかたをしようとしてやしないんだもの――」

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