宮本百合子 『二つの庭』 「ひととひととのいきさつには、きっと、はた…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『二つの庭』

現代語化

「人の関係には、よそからはわかんないこともあるんだろーね」
「私にもわかんない事実があるってことはわかるよ。でもさ、遠藤さん、あなたは相川良之介が好きだったんでしょ？」
「好きでしたわ。あの人が家でどれだけ孤独だったかって、私が一番知ってるから」
「それなら、その話をあちこちでして、わけわかんない人に信じろって言う必要ないと思う」
「あなたがそういうこと言うの聞くとつらいわ」
「やめたほうがいいよ、やめときなよ」
「せめて私はもう聞きたくない。いい？」
「世間は冷たいからさ、あなたの気がおかしくなったってなるよ」
「本当にそうですわ」
「あなたのおっしゃる通りよ。いくら記者に話したって、頭おかしいって思われるだけよ」
「そんな人にも話したの？」
「はい」

原文 (会話文抽出)

「ひととひととのいきさつには、きっと、はたではわからないようなこともあるものなんでしょう」
「私にはわからない事実というものもあるんだろうと思います。でもね、遠藤さん、あなたは相川良之介という人を愛していたの？」
「それは愛していましたわ。家庭で、どんなにあの方が孤独だったか知っていたのは、私一人ですもの」
「それなら、そういう話を、あっちこっちもって歩いて、わけもわからないひとに、それを信じろなんていう必要はないと思うわ」
「わたし、あなたが、そういうことをいって歩くのを考えると苦しいわ」
「やめた方がいいわ、おやめなさいよ、ね」
「少くともわたしは、もうききたくないわ。いい？」
「世間は冷酷ですからね、あなたの気がどうかしている、というのがおちよ」
「ほんとに、そうですわ」
「あなたのおっしゃるとおりですわ。いくら記者のひとに話したって、気違い扱いなんですもの」
「そんな人にまでも話したの？」
「ええ」

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