林不忘『丹下左膳』「駕籠は……駕籠は――」…

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「駕籠は……駕籠は――」
「駕籠はここにあるぞ。しっかりしろ！」
「ああ、駕籠はあるけど、乗ってたお藤さんが、あの浪人の後を追いかけて――」
「んで、その浪人はどの方向へ？」
「あ……あの、この山の下から車坂の方に、そ、それから、どうやら二人で話してたみたいで――」
「二人の話？　すると、一風宗匠のお墓参りの腰元と、その狼藉者は知り合いってことか。んで、二人はどこへ行くって言ってた？」
「な、なんでも、浅草の竜泉寺って――？」
「おい！落ち着け！　その浅草の竜泉寺って――？」
「は、私はもうダメです……竜泉寺のとんがり長屋とか――夜中に、そういう声が聞こえてました」

原文 (会話文抽出)

「駕籠は……駕籠は――」
「駕籠はここにあるぞ。しっかりせい！」
「ウム、駕籠はここにあるが、乗っておったお藤どのは、あの浪人者のあとを追って――」
「サ、その浪人者だが、どっちの方角へまいった？」
「は……ア、アノ、この山下を車坂のほうへ、ソ、それから、なんでも二人の話では――」
「二人の話？　すると、一風宗匠代参の腰元と、その狼藉者とは、知りあいとみえるな。シテ、ふたりの話では――どこへゆくと申しておった？」
「ナ、なんでも、浅草竜泉寺の――？」
「コラッ！　気をたしかに持てッ！　その浅草竜泉寺の――？」
「ハッ、拙者は、もうこれにて……竜泉寺のとんがり長屋とかへ――闇中に、そういう話し声が聞こえました」

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